寄り道62 アクションリサーチ

2023.6.1
雨の日も里山三昧

ある人に、アクションリサーチに関連した発表をしてほしいという依頼があった。
これまで、私はあまりアクションリサーチという言葉に関心はなかったのだが、この機会に自分がたどってきた道のりを、その思索と実践を、アクションリサーチという視点からふりかえると、何か自分でも思いがけない気づきがあるかもしれない。
そのように思えたので、引き受けることにした。

ところで、アクションリサーチとは何だろうか。
この用語は分野によって異なる展開をしてきたので、決まった定義がない。
私の思索と実践との関わりからすると、次の定義は私の理解をうまく説明している。

「組織あるいはコミュニティの当事者(実践者)自身によって提起された問題を扱い、その問題に対して,研究者が当事者とともに協働で問題解決の方法を具体的に検討し、解決策を実施し、その検証をおこない、実践活動内容の修正をおこなうという一連のプロセスを継続的におこなう調査研究活動」
(草郷, 2007: 254-5)


私は環境NPOの代表として20年近く、会員・会友のコミュニティ運営に携わってきた。これまで私たちが調査対象にされることはあったが、その成果が団体の課題解決に役立つことはなかった。私たちの団体が多くの調査対象の1つに過ぎない場合は、全体の中でどのあたりに位置するのかが客観的に示される程度である。また、ある程度深く調査された場合は、明らかにされる内容にうなずくものの、課題解決に向けた指摘や提案は、メンバーが引き受けている現実の重さに比べると、踏み込みが甘く感じられてしまう。

私たちの団体が経営的な危機に陥ったとき、外部からファシリテーターを招いて議論を重ねた末、身を切るような組織改革を実施したことがある。結果的にその改革が成功したのは、コアなスタッフはもちろん、周縁的な位置にいたメンバーの当事者性が強くなったことが要因だったと考えている。ただし、この組織改革は精神的な負担も大きかったので、その後は小さな問題が見つかっても場当たり的な対応で済ませ、問題が大きくなってメンバーの危機意識がそろってから改革モードに入るようにしている。その点も含めて、こうしたコミュニティ運営の経験をもとにNPOの組織基盤強化をテーマに市民団体向けに話すことがあるし、自己省察を促すために他団体からファシリテーターとして招かれることもある。

私たちはコミュニティの運営上、イベント参加者の属性、参加者アンケート、ウェブアクセス解析、財務諸表、議事録、運営マニュアルなど、さまざまなデータを収集・作成している。そこから目標を決めて計画を立てる。そのなかには、仮説を立てて実践を通して検証していくプロセスも含まれる。私のような実践者が日頃のコミュニティ実践を通して研究する、いわば実践者が研究者になるタイプのアクションリサーチについて、学術研究者と意味のある接点を探るならば、さしあたって2つが考えられる。

1つめは、当事者の実践を支える社会観や人生観などがどのように形成され変容してきたのかという問いで、これは当事者のライフヒストリーを探るというかたちで理解することができるだろう。私はこの問いに関して、自ら関わってきた環境運動史をライフヒストリーとともに学術論文にまとめ、これを当事者研究と呼んだ。当事者研究というと、浦河べてるの家における障害当事者によるものがよく知られるが、私も環境運動の実践者であり研究者であるという立場性を強調してそう呼ぶことにした。
2つめは、ガバナンス論との接点である。環境社会学で議論されてきた順応的なガバナンスでは、不確実な状況のなかでもコミュニティ実践のプロセスが継続できるようにすることが重要だといわれる。さらに、そのための条件の1つとして、メンバーの実践を通した学びがポイントとして指摘されているが、その内実について議論は進んでいない。ここにもアクションリサーチとの接点を見いだすことができるだろう。

こうした点を深掘りすることによって、「アクションリサーチ」の可能性を拡げられるかどうか議論したい。

(松村正治)

雨の日も里山三昧