第3回 絶滅危惧種

2009.8.31
イキモノのにぎわい

この夏、佐渡に行く機会がありました。
佐渡といえば鳥の「トキ」を浮かべる方も多いと思います。
トキは学名をニッポニア・ニッポン(Nipponia nippon)といい、
その名のとおり日本を代表する鳥です。
かつてはロシア、中国、朝鮮半島、日本、台湾など東アジア一帯に広く分布し、
珍しい鳥ではありませんでした。しかしながら、乱獲と生息環境の悪化により、
20世紀前半までには中国と日本を除き絶滅。
日本でも2003年10月に野生生まれの最後のトキが死亡したことにより、
日本産トキは野生絶滅しました。

江戸時代には北海道から沖縄までほぼ全国に生息していましたが、
昭和初期には、能登半島や佐渡島に数羽から数十羽のみ
生息していたといわれています。
小さい頃から親しんだ身近な生き物ではありませんが、
自分が生きている時代に日本の野生動物が「絶滅」するという
事実は私にとって衝撃的でした。

絶滅と聞いても、思い浮かぶニホンオオカミは既に過去の歴史で、
現在で考えても熱帯雨林の昆虫類やサバンナの哺乳類など、
遠く他の国で起こっている出来事というイメージがあり、
あまり現実味がありませんでした。
トキの野生絶滅は、自分が暮らす大地で、かつては身近にいた種が
永遠に失われ、この世から消えてなくなるという、
事の重大さを改めて考えるきっかけとなりました。

昔はよく見たけれども、最近はあまり見なくなった生き物がいるなと
思うことが多くなり、人からもよく聞くようになりました。
子どもの頃に比べ、野外に出ることが減ったことや、
目線が変わったことが理由かと単純に考えていましたが、
日常的に見られた生き物が確実に減っているのだと思います。
実際にメダカやゲンゴロウなど、子どもの頃にはふつうに捕っていた
生き物の一部が、今は絶滅危惧種に指定さているからです。

絶滅危惧種(※)とは、様々な要因により個体数が減少し、
絶滅の危機に瀕している種や亜種を指します。
約38億万年前に生命が誕生して以来、進化する過程で新しい種が
誕生しては絶滅するというサイクルを恒常的に繰り返してきました。
このサイクルとは異なり、多くの生き物が同時に消えてしまう「大量絶滅」が、
過去5億年で5回起きたと考えられています。

環境の大変動が原因であると推測され、
5回目の大量絶滅は約6500万年前で、恐竜たちが滅びたものです。
進化の過程で起こる種の絶滅も、白亜紀には平均して約1000年に
1種ぐらいの割合で起きたと推測されていますが、
1975年頃には年間約1000種、現在では年間約4万種が
絶滅しているという推測がされており、
いまの時代は人間活動が原因で引き起こしている6回目の
大量絶滅期ともいわれています。

人間を含めた生態系は、気象や地理条件などの自然環境を含め
複雑に絡み合って存在していますが、
まだまだ解明されていないことも多くあります。
生き物の絶滅がかつてない速さと規模で進んでいることは、
長い年月をかけて微妙なバランスを保ってきた生態系に、
どのような影響を及ぼすのかわからないことが問題とされています。

人間自身も生態系の一部であり、地球上にある環境や生き物は、
私たちが生きていく上で必要不可欠な存在です。
生き物の減少や変化は、生態系や自然環境の変化の
バロメーターでもあります。
何気ない日常のなかでも、身近な生き物に目を向け、
小さな変化に気づく感性や目を養うことが大切なのではないかと思います。

(tanji)

※「絶滅危惧種」とは、正式には「絶滅のおそれのある野生生物」のことで、
レッドデータブックに記載されている種を指します。
「レッドデータブック」は、絶滅のおそれのある種のリストを作成し(レッドリスト)、
それらの生息状況等をとりまとめ編纂したものです。
世界的には国際自然保護連合(IUCN)、日本においては環境省、水産庁のほか、
自治体、NGOが独自にとりまとめており、
絶滅危惧種の保護を進めていくための基礎資料として活用されています。