第4回 狢のいるところ

2009.10.1
イキモノのにぎわい

つぶらな瞳に小さな丸い耳、鼻も愛嬌のある丸さで、面長な顔。
骨格は頑丈そうで、足が短く太く、ずんぐりした体型。

このイキモノは、最近、出会った「アナグマ」です。
三十数年生きていて、野生のアナグマを見たのは初めて。

体型や大きさがタヌキと似ていますが、おおきく異なる特徴は、
鋭く太い爪を持ち、穴を掘るのが上手なところです。
地面に数世代が同居できる大きさの巣穴を作ります。

私が出会ったアナグマは、親とはぐれ保護された幼獣でしたが、
檻のなかで立派な穴を掘りまくっていました。
好奇心旺盛なのか、人の姿を見るとダダダッと走りより、
強靭な足で檻によじ登っていました。
歩き方は、やや内股で不安定そうに見えますが、走るとドシドシという
効果音が聞こえてきそうな勢いで、その姿を見ると、
昔話などで滑稽な役回りをさせられた理由がわかる気がしました。

このアナグマ、方言で「ムジナ(狢)」と呼ばれることがあります。
しかし、この言葉がじつは厄介。

必ずしもアナグマの俗称というわけではなく、地方によっては
タヌキのことを指したり、アナグマとタヌキの両方を指す場合もあります。
傾向としては、東日本ではアナグマ、
西日本ではタヌキを指すことが多いようです。
この方言の違いゆえ、大正時代には、ムジナがタヌキに該当するかどうか
“むじなたぬき事件”という狩猟法違反の刑事裁判があったそうです。

生息状況を把握するための動物調査では、農林業者や猟友会など
地域住民から目撃情報を集めることがありますが、
ムジナという表現がアナグマなのかタヌキなのか混乱したり、
タヌキと見分けがつきにくい上、夜行性のため確認が難しいなど、
タヌキと混同されてしまうことが多く、
調査の精度が低くなってしまうこともあるそうです。

外来種が問題になっている昨今、種は異なりますが、
体型と大きさが似ていることから、アライグマ(アライグマ科)、
ハクビシン(ジャコウネコ科)とタヌキ(イヌ科)、アナグマ(イタチ科)を
比較する展示物やイラストを見ることが多くなりました。
また、動物調査をする際にも、これらの種を間違わないように
マニュアルに見分け方が記載されている場合もあります。

アナグマは、神奈川県でもかつては広く分布していましたが、現在は相模川より
西側や丹沢・箱根のブナ帯で生息が確認されているのみだそうで、
三浦半島では絶滅したと推測されています。

ムジナをはじめ多くの動物たちが、地方の民話や伝承に多く登場し、
「同じ穴のムジナ」のように日常の言葉に使われるくらい
かつては野生動物が身近な存在でした。しかし、今は人間活動が
その生息域を切断し、平野部や丘陵地から奥地へ追い込んできたため、
なかなかその姿を見かけることはできません。

でもいつか何かの拍子に出会うこともあるかもしれず、
そのとき野生動物の様々な生態を知っていれば、
適切な接した方ができるとともに、大きく考えれば自然環境の保全に
つながっていくのではないかと思います。

秋の夜長、虫の声を聞きながら、イキモノの図鑑を覗いてみれば
新たな発見があるかもしれません。

(Tanji)
参考文献:
・神奈川県立生命の星・地球博物館編『かながわの自然図鑑 哺乳類』
有隣堂 2003