最終回 いのち

2013.7.31
イキモノのにぎわい

信じられない事だが、このタイミングで新しい命を授かった。
交際期間を含め18年間、これまでそんな兆しはまったくなかったのに。
命が芽生えたのはどうも4月中旬あたりらしい。

この現象に大震災が影響しているのでは、と思えてならない。

東北道が一般車両の通行止め解除になった翌25日に郷里の福島へ。
倒壊は免れたものの瓦や壁が落ち、地盤沈下した実家や
旦那の実家の片付け、半壊した親戚宅の片付けをし、
4月に入りガソリン事情も落ち着いたため、沿岸部でボランティアに参加。

そこで目の当たりにした「集落の壊滅」。

福島への帰省を繰り返す合間、いまの職場で漁民を支援する
プロジェクトの担当になり、宮城県気仙沼市や南三陸町などへ行き、
ここでも目にした沿岸部の光景。

報道で「壊滅」という言葉を聞いたとき、よく飲み込めなかったが、
その言葉の意味を理解した。

3月11日には海上自衛隊の旦那は東北へ行き、帰ってきてから
何も語らないが、恐らく壮絶な状況を目の当たりにしたのだろう。

そんななかで、きっといままで眠っていた双方の細胞が何かを感知し、
「子孫を残す」という役目に目覚めたのではないかと思えてならない。
いま私の故郷・福島が東北電力福島第一原発の事故にさらされ、
大変な状況に陥っている。
私がこのような身体になってからか、「福島には帰らない方がいい」
とメールや言葉で伝えてくる人が少なからずいる。

それを一番分かっているのは福島人だ。
いつもそのジレンマのなかで悩み暮らしている。

そんななかに追い討ちをかける言葉。
遺族に対し放った慰めの言葉が、逆に遺族を傷つけるそれと似ている。

「福島に行かないほうがいい」=「福島から来るものは汚れている」
人の心の裏に潜む、差別の心が無意識に人間を動かしてしまう。
転院先、転校先、旅行先、修学旅行先などでの嫌がらせは収まらない。
先月、実家の近所の農家の方が、自ら命を絶たれた。
報道されるものから、報道されないものまで、様々な悲しい事件が今も続く。

そんななかでも踏ん張り、頑張っている人たちが沢山いる。
安心・安全な農産物を出荷するためにはどうすべきか苦悩する農家、
大地にばらまかれたものをどうにか除染しようと試みる人々、
目に見えない恐怖と戦いながらも子育てに奮闘する母親・父親たち・・・。
福島に住むいとこのうち3人に1月、4月、5月にそれぞれ新生児が誕生した。
みな福島で育てるという。

それを親のエゴだとか、親の身勝手な判断や都合で子どもの将来を
潰すのかなどと、その親を批判するのはたやすい。
しかし責めるべきところは、そこなのだろうか?
福島に残る人々の事情は百人百様だ。
ペースメーカーを入れ医者に無理するな、と言われながらも祖母は
今も畑を耕し続けている。

「おれらはいいが、孫とその腹の子っこさ、食わせてやれねえのが、なさげねえ」
そう言いながらも、畑を耕せるその時その時に感謝し、福島の大地に寄り添う祖母。

離乳食には祖母の野菜を食べさせてあげたい、と願う。
(Tanji)

※これまで「イキモノたちのにぎわい」をお読みいただいてありがとうございました。