第15回 今夏のはじめて

2010.8.31
イキモノのにぎわい

今年は「はじめて」に出会う夏でした。
はじめて食べるもの、はじめて会う人、はじめて見る動物・・・いろいろありましたが、
そのひとつに、はじめて生えているところを見たものがあります。
「タバコ」と「アイ」です。

昨今ずいぶん肩身の狭くなった嗜好品、たばこ。
祖母から夏になると「昔、夜はタバコを手伝うんだけんど、眠くて辛がっだぁ~」
とよく聞いていましたが、周辺でタバコを栽培しているところを見たことがなく、
昔の話なのだろうと思っていました。
先月に帰省した折、隣村に車でお使いに出たところ、畑一面、背丈の高い黄緑色の
ものが広がっていました。あえて表現すれば、実の付いていないトウモロコシ畑?
のようにも見えますが、タバコ畑です。
その近くには黒いビニールハウスがあり、中にはタバコの葉が一枚一枚、
丁寧に干されていました。

タバコはナス科タバコ属の一年草の亜熱帯性植物で、日本の葉タバコ産地は九州と
東北地方に多く、福島県には「松川葉」と呼ばれる国内外で評価の高い在来種があり、
現在も栽培されています(ちなみに産地には「煙草神社」があります)。
タバコは夏に収穫し乾燥させるそうなのですが、大変手間がかかる作業だそうで、
祖母の話はこれか~と納得。

もうひとつ初めて出会ったアイは、知人にお願いして種を分けていただき、
栽培してみました。
株間や間引きの具合がよくわからず、密植しすぎで風通しが悪かったのか、
一部枯れてしまったところもありましたが、どうにか無事に生長。
猛暑続きに少々ウンザリしながらも、青空の下、生藍染めに挑戦。
藍色を含んだ葉を摘み、染料液を作り、布を浸し、ときどき染料液から出し、
布を広げ風にさらす、という作業を何度か繰り返していくと驚くほど鮮明な
青色に染まっていきます。
表面がてろんてろんの絹のスカーフを染めたので、布に風をとおしながら
見ていると、まるでクラゲのカツオノエボシのようです。

アイ(藍)はタデ科イヌタデ属の一年草で、飛鳥時代に伝わり近世に入り
全国に広りました。アイで染めた色名には藍色の他、瓶のぞき、水色、浅葱(あさぎ)、
浅縹(あさはなだ)、縹、紺などがあるそうで、昔の人の色彩に対する感性の豊かさ
にいつもほれぼれします。
また、藍色は日本人の肌色に最も合う色とも言われています。

衣食住のうち、国内生産について「食」や「住」についてこれまで考える機会が
多かったのですが、「衣」について自分はあまり知らないことが多いなと思いました。
毎日何気なく身にまとう衣類。
「食」や「住」については国産や地産地消と気にかけるのに「衣」は・・・?

お蚕様から絹がどうできるかは知っていましたが、昔は庶民の着物として一般的だった
綿や麻がどう栽培され加工されているのか、また、現在の衣類のほとんどが
合成染料ですが、天然染料に染められた衣類は日本の風景にどう馴染むのか、
地域によりどう違うのかなど改めて考えてみると知らないことばかり。
今年はとりあえずどんな植物なのか見てみようと、以前より興味のあったアイの他、
秋には収穫できるワタも栽培しています。関東地方周辺の栽培に適している
「大島在来」です。

タバコと同様に、ワタもその土地その土地ごとに固有の在来種があります。
季節の変化に富み、南北に長い国土を有する日本において、その地域の風土にあった
ものを育て、暮らしのなかに取り入れるということは、とても理にかなっている
ことだなあと思います。
とはいえ、全てにそれを実現することはなかなか難しいので(やはり経済的に・・・)、
自分たちの暮らしのなかの様々なものが、どんな原料からどのような工程を経て
私たちに届くのか、また、それを育てる人にはどんな苦労があるのかなど、
知ることからはじめようと改めて思った夏でした。
(Tanji)

参考文献:
山崎和樹著『草木染~四季の自然を染める~』山と渓谷社 1997

参考HP:
福島県たばこ耕作組合
(有)八千代共生会