第16回 全部いただくいのち

2010.11.30
イキモノのにぎわい

先日、日帰り出張で青森県にいった折、折角ここまで来たのだからと
車を跳ばして本州最北端の大間町へ。時間がなかったのですがここまで
来たからのだからマグロを食べなければと思いお店に駆け込んだところ、
流石「黒いダイヤ」と評される大間のマグロ!
躊躇する値段でしたが・・・絶品っ!悔いのない瞬間でした。

美味しいものを食べられる幸せをかみ締めながら、そういえば丁度、
フランスで11月に大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)の
特別会合が行われるな・・・と考えつつ、ありがたく
クロマグロ(ホンマグロともいいます)をいただきました。

近年、マグロ類は世界の海域でその資源量の減少が懸念されており、
乱獲と資源管理が出来ていないことが指摘されています。
なかでも大西洋のクロマグロの枯渇が懸念され、今年3月カタールで
行われたワシントン条約第15回締約国会議(CITES/COP15)でも、
北大西洋のクロマグロについて取り上げられました。

大量に消費する日本は常に世界から非難を受けています。
しかし、クジラ・イルカに至っては科学的うんぬんを越え異常とも言える
感情的な動きには何か気持ち悪さを感じます。
今年の春『ザ・コーヴ(The Cove)』がアカデミー賞を受賞し話題に
なりましたが、この映画は最たるものだと思います。
(ちなみにクジラとイルカは同じクジラ目。成体の体長で呼び分けます。)

捕鯨史を見ると、日本にとって大きな存在が欧米です。
鯨肉は古来より日本では一部の地域で食文化としてすでに定着して
いましたが、日本全国に広まったのは太平洋戦争後です。
敗戦国日本の逼迫した食糧事情の改善を図るひとつの手段として、
GHQが南氷洋捕鯨操業を認めたことから始ります。
日本の食糧難を救ったクジラですが、日本以外は鯨油が主目的だった
ため、鯨油が大量にとれるシロナガスクジラなど特定種を乱獲した結果、
資源悪化を招きました。世界中から捕鯨批判が上がり、
1970年代に反捕鯨の動きが高まりはじめました。

しかし、その背景には単にクジラが減少した危機感だけでなく、
アメリカの畜産業界の鯨肉に代わる牛肉の対日輸出への思惑や
ベトナム戦争の枯葉作戦への市民団体等の批判をかわすひとつとして、
矛先を捕鯨に向けさせようという政治的な動きがあったといわれています。

そういえば日本が開国したきっかけも、アメリカ捕鯨船が日本沖合いで
大規模な操業をし、水や食糧等を調達する補給基地を置きたいと
いうことがきっかけでした。(日本近海のクジラはアメリカに乱獲され
激減し、日本の伝統的な捕鯨の衰退を招いたともいわれています。)

私がこういった捕鯨史を知ったのは大学生の頃でした。
それまではどちらかというと私もクジラ・イルカ愛護精神派だった
と思います。
日本はもちろん世界から批判されるようなことをしているかも
しれませんが、自然保護にしろなんにしろ、その歴史的背景や経緯など
を知ってから、自分がその物事に対してどう考えるべきか、
改めて思ったきっかけのひとつでした(もしかしたら上記の捕鯨史も
事実ではないかもしれないということも含め)。

日本人のかつての暮らしは、生き物からいただいた命の一片も無駄に
せず利用し、生き物やそれを育んでくれた自然に感謝し糧として
きました。しかし、飽食の現代、それは忘れ去られ、
様々な歪が私たちの生活を脅かします。

「マグロも捨てるとこはひとつもねえ。若けぇのは切り身だけを食うだけ
だから本当の食べ方も知らねえし、ありがたみもねえんだ」
延縄漁船の元船長さんがおっしゃっていた言葉が思い出されます。

(Tanji)

参考HP:
大間わいどマップ
あおぞら組のなまなま大間通信
WWF「どうなる?大西洋マグロの未来」

参考資料:
小松正之著『クジラと日本人』青春出版社、2002