第7回 お椀の外にも中にも

2010.1.1
イキモノのにぎわい

たこ、黒豆、青豆と数の子、ひやし豆、田作り、金ぴら、背越切りの塩鮭、
煮がし(里芋、こんにゃく、にんじん、凍み豆腐などが入った煮物)、
するめの醤油漬け、いか人参など。
これは私の郷里の福島県中通り地方の伝統的なおせち料理です。
地域によっては内容が多少異なり、汁物の「ざくざく」や粉物を蒸しあげた
「ねりっぽ」、鮫を煮付けた「さがんぼ」と呼ばれるおせち料理が加わったりします。

お雑煮は、焼いた角餅で、人参、牛蒡、里芋、鶏肉が入った醤油味です。

以前、香川県出身の友人から「お雑煮です」と出された白味噌仕立てのお汁に
入った丸餅を食べたら、なかに餡子が入っていたのは衝撃的でした。
東日本と西日本の文化の違いに、よくお雑煮の例があげられます。
角餅か丸餅か、餅は焼くのか煮るのか、汁は醤油か味噌か、だしは昆布か
かつおか鳥ガラか、入れる具材は・・・等々、お雑煮という同じものなのに
中身がまったく違う、食文化の奥深さに驚きます。

私が嫁したのは、昨年の大河ドラマで注目された米沢藩に在したおうちで、
年中行事が米沢流です。
質素倹約で有名な鷹山公(※)の教えを受け継ぎ、お正月は質素に過ごします。
そのかわりなのか、おとしとり(大晦日のこと)を盛大に行います。
その盛大たるや義母が作る料理の品数に圧倒します。
鯉の甘煮やあらい、鯉こく、カラカイ煮、氷頭なます、塩引寿司、ヒョウ干し煮、
いし納豆等々、小鉢から大皿まで器に盛られた料理は20品目以上にのぼり、
テーブルから溢れ出さんばかりに並びます。
(宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の1シーンを彷彿とさせる風景です)
器も歳夜の専用のもので、昔から大切に伝えられてきたものだそうです。

料理のなかに「かてもの」もいくつかあります。
「かてもの」とは鷹山公時代にまとまられた書物で、主食の糧になる
草木約80種の食し方をはじめ、凶作時の味噌の作り方や、凶作に備えて
蒔き植えておく作物、干しておけば数年持つ山菜や野菜、獣や田螺の
保存方法等が細かく述べられています。
この書はその後の大飢饉をはじめ広く食糧難を救うために役立ち、さらにこの
教えの多くは今に伝えられ、郷土食として生活のなかに息づいています。

お正月の料理ひとつをとっても、多種多様。
五穀豊穣と無病息災を願い、自然を敬う先人たちの知恵や工夫にも
驚きますが、人が生きるために必要な様々なものを与えてくれる自然の豊かさ、
動植物の多様性の面白さを、お椀の外にも中にも感じます。

2010年は「国際生物多様性の年」であり、日本で初めて「生物多様性条約
締約国会議」が開かれます。
温故知新、身土不二、改めて足元の自然や文化を見つめなおすとともに、
生物多様性の本当の豊かさについて、考え行動したい1年です。

(Tanji)

※鷹山公:出羽国米沢藩第9代藩主上杉治憲(隠居後の号が鷹山)。窮乏に喘ぐ
藩財政建て直しを進めた屈指の名君として知られています。大倹約令、殖産振興、
開拓、水利事業などの藩政改革を断行するとともに教育や民政を安定させる
ことにも力を尽くしました。

参考文献:
平井美穂子『中通りの年中行事と食べ物』、歴史春秋社、2000年

参考HP:
国土地理院「日本全国お雑煮マップ」
米沢商工会議所「複眼で読む上杉鷹山秘話」