第1回 生物多様性

2009.6.30
イキモノのにぎわい

この言葉、聞きなれない方にはなんとも、
わかったようなわからないような不思議な言葉に感じられると思います。
考え方としては、様々な生態系があること[生態系の多様性]、
様々な生物が存在すること[種の多様性]、
同じ種類のなかでも遺伝子レベルで様々に異なること[遺伝子の多様性]
の3つに分けられ、これらが健全に保たれている状態が、
正常な生物多様性を意味するとされています。

かつてその名を冠する施設で働いていたとき、
来館者に生物多様性についてレクチャーをしていましたが、
私自身もいまいち理解できていませんでした。
とはいえ、この多様性が今、私たちの身近なところで崩れ始めており、
かなり危機的な状況です。

そのひとつがメダカ。
絶滅危惧種(様々な要因により個体数が減少し絶滅の危機に瀕している
種・亜種を指します)に指定されたときはマスコミにも取り上げられ、
大変な話題になりました。
減少した要因は、外来種の食害の他、大型区画水田化や水質汚染、
生息地及び産卵床の消失等々の環境変化が考えられています。
しかし、メダカは単に数だけの問題ではなく、
遺伝子レベルでも危惧されています。
川でメダカを見たとしても、それが昔からその川に棲んでいた
“本物(在来)のメダカ”かどうかわからないのです。

生き物は同じ種でも地域により遺伝子が異なり、
見た目が同じでも異なる特徴があります。
しかし、そういった正しい知識を持たないまま、
単純にメダカを増やしたいという人間の自己満足のためだけに、
どこの地域のどんなメダカかわからないメダカを無差別に水系に放す
「増殖放流」が日本全国で行われています。
これは遺伝的特徴の攪乱を起こしている可能性が高く、
保護や保全とはとても言えません。

長い年月をかけて、生き物はその地域独自の多様性を作りあげてきました。
それを人為的に短時間で操作することは、
将来的にどういった結果をもたらすのか図り知れません。
人間が良かれと思ってしている「善意」が、
逆に遺伝子の撹乱や劣化を招き、結果として
種の絶滅を促している可能性も考えられるのです。

目に見えやすい安易な行為よりも、
その生き物が生息可能な環境をひとつでも多く残すことや再生するという、
地道な行為のほうが本当にするべきことなのではないでしょうか。

(tanji)