01月29日 (火)|「『さぁ のはらへいこう』を見て 里山保育・森のようちえんについて考える」レポート
上映会&シンポジウム「『さぁ のはらへいこう』を見て 里山保育・森のようちえんについて考える」を開催しました。
参加者は、一般参加者30名、ゲスト・スタッフを合わせると36名、そのほか参加者のお子さんが約10名いらっしゃいました。
映画は、1985年から鎌倉市の山崎の谷戸を拠点に、共同保育を続けている「青空自主保育なかよし会」の3年間の活動の様子を撮影したドキュメンタリーです。
共同保育とは、専門保育士がいるほかに、親が交代で保育当番になることを引き受け、自分の子ども以外の保育にも参加することを特徴としています。
ここでの保育の原則は、「口にチャック、手は後ろ」。つまり、手出し口出しはせず、見守りに徹することです。
当然、子どもたちはケンカします。ときには、いらだって、手を上げる子どももいます。しかし、たいていはすぐに仲直りして、何事もなかったかのように、一緒に遊び始めます。
そうした子どもたちの世界を、多くの親は初めて目にして、子どもたちの気持ちに寄り添っていきます。
子どもたちは、1歳から3歳までの3年間を自然の中で過ごします。最初は、土に触れることさえ嫌がっていた子どもたちも、すぐに環境に慣れて成長していきます。
できない子がいれば、できる子が手伝ったり、できるまで待ったり。子どもたちが自然の中で、小さな社会をつくりながら、力いっぱい生きています。
画面から伝わる、そうしたけなげさ、たくましさに、愛おしさを感じます。生命の力を感じます。
後半のシンポジウムでは、まず、「青空自主保育なかよし会」の相川さんにご登壇いただき、映画をご覧になった方からの質問に答えながら、お話しいただきました。
「ケガをするリスクをどう管理しているのか?」「(海や川に行くと)子どもたちが素っ裸になるのはなぜ?」「子どもたちのケンカにはどう接するのか?」「(子どもたちが木の実を食べていたが)キノコは?」などの具体的な質問に対して、お考えが述べられました。
次に登壇した木俣さんからは、「森と自然を活用した保育・幼児教育を取り巻く動向~自治体を中心に」と題した話題提供がありました。
一般的に自然空間は自律的な構造を持っているので、そこでは主体的・対話的な学びが促されると言われています。しかし、そうした自然体験を学びとなるのかについては、幼児教育の質を保証する必要があります。一般に認可外の自主野外保育の場合、支援制度がほとんどありません。しかし、県単位では認証制度を設けて支援する制度があるところもあるようです(鳥取県、長野県、広島県など)。こうした自治体の動きを中心にお話しいただきました。
最後に登壇した関山さんからは、NPO法人もあなキッズ自然学校の取り組みについてご報告いただきました。ホームグラウンドである横浜のほかに、茅ヶ崎・大磯などでも保育施設を運営されています。しかし、規模の拡大を目指しているのではなく、あくまでも小規模にこだわりつつ、最近では共同保育も始められたとのことです。コミュニティをつくる上での共同保育の良さを強調されていたのが印象的でした。
このあと、話題提供者3名によるパネルディスカッションをおこないました。
冒頭、相川さんは、「森のようちえん」に子どもを「預ける」という親が増えてきている現状に対して、親が自主的に保育にかかわる意義を述べました。そうすると、子どもを通して親もコミュニティづくりに参加することになり、その過程で自分にできることがあると気付くことができると。それは、女性が市民として社会に参加することになり、社会を変えていく力になると言います。実際、相川さんたちは、山崎の谷戸に公園計画が持ち上がったとき、その計画に反対するばかりでなく、オリタナティブを提示しながら公園づくりを進めました。こうした経験からくる力強い確信が、発言の裏にあったのです。
しかし、一方で、保育・幼児教育の質を高めていくためには、制度の充実が欠かせません。今のところ、直接的に自主保育を支援する制度はありませんが、子育て支援の制度を活用できるかもしれないと、木俣さんから示唆がありました。
関山さんからも、保育の質の保証は絶対であると発言がありました。ただし、保育が「サービス」とされることには違和感もあり、それで共同保育を通じたコミュニティづくりにも挑戦しているとのことです。もあなでは、自然体験・環境教育によって、それぞれのふるさとを愛する子どもたちを育てようとしています。それは、横浜のように自然の少ないところでも可能であると信じて、活動をしているということでした。
非制度的な相川さんたちの青空自主保育に対して、制度の拡充などによって支援の枠組みを良くしようとしている木俣さん。その間のような位置にいて、最近のニーズに応えながら、事業を広げている関山さんという関係でしたが、三者三様の取り組みから、それぞれ学べることが多くありました。また、ディスカッションでは、対立的な議論になるかとも思われましたが、共通の目標に向かっていて、やり方は異なるだけであると確認できました。
里山の現代的な利用として、保育・幼児教育のニーズはさらに高まると予想されますので、引き続きフォローしながら、実践にもかかわりたいと思いました。
※今回の出演者
相川明子さん(青空自主保育なかよし会)
木俣知大さん(公益社団法人国土緑化推進機構)
関山隆一さん(NPO法人もあなキッズ自然楽校)
ゲストおよび参加者のみなさん、どうもありがとうございました!
参加された方の感想
・良い繋がりが出来ました。ありがとうございます。
・相川さん達の活躍はすごいな思っています。お母さんたちががんばる、というのはもちろん大切だなと思いましたが、今後はお父さん達が育休を取って青空保育に参加し、お母さんがはたらくというスタイルの人も出てきたら面白いななんて思いながら聞いていました。男性側の視点が入ると運営面でやりづらさが出てくる可能性は確かにありますが、1人でも男性が体験してその人の目が開かれることで、子育てしにくさ、が少し改善されるのかなと思いました。既に育休中の男性の日記などが、ポツポツと出てきてはいて、なかなか面白いので。
また、自主保育を経験したお母さんは、人間力が磨かれ、協調性も育まれるので、企業や社会にとっても良い人材、再就職の際に役立つなど、社会的に評価がされる指標づくりというか、企業や政府などが、見方を変える必要はあるなと思いました。評価されることが目的になっては本末転倒ですが、素晴らしいことをしている女性たち、と認識されるようになるのが本来だなと思いました。
・映画は、子どもたちの仲間と共にのびのび成長していく姿を見ることが出来、とても暖かい気持ちになりました。自然から学ぶことがたくさんあるなぁと改めて思いました。
「子どものことを信じて見守る」ということを心掛けて、子どもと向き合っていきたいと思います。
・残念ながら午前のみの参加でしたが、ずっと観たいと思っていましたので、あっという間の2時間でした。里山保育の幼稚園に子どもが通い、この春卒園します。入園させることに迷いもありましたが、今は本当に通わせてよかったと思っています。大事な根っこの部分がしっかり育ったと思います。生き物が共存している里山で子どもたちが育つのは大切なことです。
なかよし会は大きい組の子が最年長なので、その子たちのたくましさ、小さい子を助ける姿は、とても3、4歳児とは思えませんでした。けんかの場面では、大人は極力口を出さない。考えさせられました。
・私自身が青空自主保育に参加しているので、里山保育等については相川さんに近い視点で考えていることが多いのですが、今回はさらにお二人のお話を聞いて、違った立場や視点で考えることができて勉強になりました。ありがとうございました。
・海外の森の幼稚園と日本における里山での子育て、似ているようで、別物でなないかと思います。そこら辺を紐解くと、核心にせまることができると思っています。
・横浜市緑区で青空自主保育森っ子の保育協力をしております。現在小学4年生の娘が入会したての8年前に、「さあ のはらへいこう」の上映会に参加しました。当時、映画を見て子どもたちのけんかの場面を見るたび、胸が苦しくハラハラしたのを覚えています。今回2度目となり、自然の中の四季を通して子どもたちのたくましい姿、仲間になっていく過程、「生きる力」をあらためて感じました。そして、けんかの場面ですが、初回に感じた思いとは異なり、安心して見ることができました。なぜなら、青空自主保育を通して体感してきた中で、子どもたち自身の力を信じているからです。自主保育では、子ども同士の関わりを大切にしています。保育者や当番の親はいるが、極力大人の口出し手出しを無くし見守りに徹することで、仲間の関係も深まり、遊びが充実し、小さな子への優しさが生まれます。どんなに激しいけんかをしても、どこかのタイミングで自然と仲直りをしています。
私は、青空自主保育で子育てをしてきたことで経験豊かな親同士の仲間ができ、いろいろな考え方にも触れ、自分の子以外の子どもたちの育ちにも関わることができ、勉強させられました。今でも学ぶことは多いです。また、身近な里山でゆたかな自然に出会えてたこと、ありがたく、大事にしていきたいです。感謝しています。
以前は、市立保育園の保育士をしていました。自主保育と保育の趣旨は全く異なりますが、もあな保育園での実践は自然の中で遊ぶことを主にしていて、室内や決まった枠の中ではできない柔軟な考えで保育ができてうらやましくおもいます。同じような保育園が増えるといいですね。また、多様な保育があることを知ってもらうこと、こどもの保育環境を整えることは需要もあり必要とされていますが、大切な乳児期の保育に関しては、親との時間を確保するべく、保育園整備よりも、育児休暇せいどや、ワーキングシェア等の働き方の整備を進めてほしいと願っております。
・相川さん、子連れ参加者に配慮した声かけありがとうございました。木俣さんの話す、里山と子育てとの共存、森のようちえんが、神戸市でも広がってくれるといいなぁと思いました。また、私は、今まで看護師として働いていました。無謀ながら、里山と関われるすべはないだろうかと、ふと思ってしまいました。いろんな世代を巻き込んで、地道に活動していくことの大切さを感じることができました。
・知らないことが多く、上映会は参考になりましたが、制作年度から時間がたっており現状は少し状況が変わってきていると感じました。森のようちえんについては今後のどのように展開していくのか興味があります。