アグロエコロジーの可能性

2009.5.16
ひねもす里山/NORA雑感

本日は、勤務先の大学で開かれたアグロエコロジーに関する国際シンポジウムに出席してきました。
これは、恵泉女学園大学の「教養教育としての生活園芸」(1年生全員が有機農業を1年間体験する必修科目)が文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に採択されたことから、補助金をいただいて開催されたものです。
プログラム概要は次のとおり。

国際シンポジウム「持続可能な環境と社会を目指して-アグロエコロジーの可能性を問う」

日時:2009年5月16日(土) 13:00~17:00
場所:恵泉女学園大学(東京都多摩市) J202教室

コーディネイター:大江正章
ジャーナリスト(『地域の力』著者)、出版社コモンズ代表

第1部(13:00~15:20)
「アグロエコロジーとアグロエコロジーをベースとした教育展開」
Stephan Gliessman(カリフォルニア大学サンタクルーズ校教授)
「学校菜園と環境教育」
Roberta Jaffe(環境教育プログラム「Life Lab Science Program」創設メンバー)
「カリフォルニアにおけるアグロエコロジーと有機農業研究」
村本穣司(カリフォルニア大学サンタクルーズ校コミュニティー・アグロエコロジー・プログラム研究員)
「恵泉女学園大学における生活園芸をベースとした教育プログラム」
澤登早苗(恵泉女学園大学准教授 特色GP取組担当者)

第2部(15:30~16:50)
シンポジウム 「アグロエコロジーの可能性を問う」
パネリスト:Stephan Gliessman、Robbie Jaffe、村本穣司、澤登早苗、谷本寿男(恵泉女学園大学教授)

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アグロエコロジー(Agroecology)とは、おそらく耳慣れない言葉だと思います。似たような用語のアグロフォレストリー(Agoroforestry)は、農業と林業の複合的な経営を意味し、たとえば、混牧林・林間放牧などの具体的な姿をイメージできます。しかし、アグロエコロジーについて、「フードシステムの生態学」と定義される新しい学際的な学問領域であり、農場から農村景観、地域コミュニティまで視野に入れ、持続可能な食料生産・流通・消費を目指し、社会学、文化人類学、環境学、倫理学、経済学も含むものであると説明されても、わかりにくいかもしれません。
そこで、思い切ってNORAなりに言い換えてみると、農場から食卓まで(Farm to Table)農産物が流れていくことによって、里山の生態系も、かかわる人びとの暮らしも豊かになることを目指す学問領域であると言えるでしょう。つまり、NORAが目指していることを学問的に調査研究することだと言っても差し支えないと思います。

さて、基調講演の概要です。まず、「アグロエコロジー」の提唱者S.グリースマンさんが、こうした学問領域が必要とされている背景、アグロエコロジーの定義を説明されてから、従来のフードシステムを持続可能なかたちへと転換していく手順を紹介され、さらに、UCSCでの教育プログラムPICA(The Program in Community and Agroecology)などを報告されました。次に、グリースマン教授のパートナーで環境教育プログラム「Life Lab サイエンスプログラム」の創設者であるR.ジャファさんが、1978年に先生と生徒が一緒になって校庭を菜園に変え、実験的に始めたというプログラムの歴史を説明され、その教育効果を写真やビデオを使って報告されたほか、米国ではミシェル・オバマ大統領夫人の発案により、ホワイトハウスに家庭菜園が作られていることもご紹介くださりました。3番目には、UCSCで活躍されている日本人研究者の村本穣司さんから、アグロエコロジーの具体的な研究事例として、カリフォルニア州のイチゴ農業を臭化メチル(害虫駆除に使われるオゾン層を破壊する物質)に頼らずに栽培するための研究をご報告いただきました。最後に、同僚の澤登先生が、恵泉女学園大学の必修教養科目「生活園芸」の概要と、その教育効果を説明されました。

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所用があったので第1部を聞いて帰りましたが、基調講演を聞いただけでも刺激を受けたので、コメントをまとめておきます。
まず、アグロエコロジーを日本で広めるには、わかりやすい言葉に言い換える必要があるだろうということ。カタカナのままでは、この真意を伝えることは難しそうです。なお、グリースマン教授のアグロエコロジーを知るためには、Agroecology: The Ecology of Sustainable Food Systemsを読むのがよさそうです。現在、村本さんたちが日本語に翻訳中だと聞いています。
次に、NORAの活動の効果を、学問的に明らかにしておく必要があるということ。やはり、活動にかかわらないとその効果がわからないというのでは、活動の広がりにおのずと制限があります。研究者と連携して活動をすすめる必要性を感じました。ちなみに、UCSCでは、学際的な研究者、農家、NPOなどがチームを作って、政府から研究費をもらってアグロエコロジーに関する調査研究に取り組んでいるとのことでした。
そして最後に、NORAの活動を(環境)教育の中に位置づけることの重要性です。これには、私たちの活動に理解のある(教育)機関との連携が必要かもしれません。

(M_M)

ひねもす里山/NORA雑感