第18回 われから

2011.2.28
イキモノのにぎわい

この時期、海岸には色とりどりの海藻が流れつきます。陸上の植物が盛りを
迎える季節とは逆に、海藻や海草は冬に成長し最盛期を迎えます(※)。

今の仕事柄、この時期は海藻に関するプログラムを多く実施します。
海藻は緑・紅・褐色にわけられ、色合いが綺麗なことから押し葉にしたり
しますが、もちろん試食もしてみます。
先日、プログラムの下見で褐色をしたアカモクを拾ってみました。
アカモクは茹でると緑色になり、刻むとメカブのような粘りがでます。
東北地方の一部では「キバサ」、新潟県では「ナガモ」などの呼び名で、
昔から食べられているそうですが、多くの地域では食材としては見向きも
されない海藻だったそうです。
しかし最近、その栄養や食感などから見直され、全国的に注目を浴びて
います。神奈川県でも新製品の開発が進められていて、横須賀市の
金田漁港で食べた新鮮な刺身とアカモクの丼ぶりは絶品でした。

海岸で一生懸命アカモクを拾っていたら、元漁師さんと遭遇。
「こんなドロモク食べるんかい~」と不思議顔。
漁師さんにとっては、漁船のスクリューの巻き込むなど、どちらかと
いうと厄介者な上に、他に美味しい海藻があるのでまだまだ一般的な
食べ物ではないようです。
このアカモク、他の海藻も同じだと思いますが、特に生育する場所と
採取する時期によって美味しさが左右される気がします。この日に拾った
アカモクは、湯がいて刻んで白ダシであえ、美味しくいただきましたが、
漁港で食べた丼ぶりのアカモクとは粘り気と食感が全然違っていました。

アカモクも美味しいのですが、この時期の海藻の王様はやっぱりワカメ。
東北の内陸部で生まれ育った私にとってワカメは塩蔵、大学生になる頃
には乾燥したカットワカメを主に食べていました。
三浦半島に移り住んでから、市場や直売所ではもちろんですが、スーパー
に並ぶ、生ワカメやワカメそのままの姿をした乾燥ワカがとても珍しく、
ましてや、旬のこの時期に朝採りしたワカメの美味しさは衝撃的でした。

海岸で拾うこともありますが、私は地元の漁師さんから朝採りしたワカメを
購入し、この時期、ワカメ三昧の日々を過ごします。
あとは旬のワカメを少しでも長く味わえるよう、湯がいて冷凍か、お天気の
いい日は洗濯物と一緒に干して、乾燥ワカメにしています。

湯がく前のワカメを見ていると、ワカメと同じ様な色をした生き物がウネウネ
踊っています。あまり気にせず、そのまま茹でると、赤いエビのようなものが
浮いてきます。何かな~と思ったら、最近、巷(一部の)で話題の「ワレカラ」
という動物だそうです。
茹で上がるとエビのように丸まり赤くなるのですが、生きているときは
ナナフシの様な細長い体型をし、脚の付き方からカマキリのようだ、
という人もいますが、正体はエビやカニなど甲殻類の仲間。
ワカメと言えば、ワレカラを思い出してしまうくらい目立つ存在です。

海藻が育つ藻場にはワレカラの他、沢山の小さな生き物たちがいます。
それを狙ってやってくる小さい魚、さらにそれを狙ってやってくる大きな
魚など、藻場は生命のゆりかごとも称され、まさに海の中の森です。

海のなかの藻場はなかなか見られませんが、海岸に打ち上げられた海藻を
覗いてみてください。目に見えるか見えないかの小さな生き物が沢山くっつ
いています。やがてそれらは海岸に生息する他の生き物によって食べられ、
分解され、新たな命の糧となっていきます。
そう考えると、小さな生き物たちも愛しくなってくるはず・・・です。

(Tanji)

※第9回「かいそう」ご参照ください。
https://nora-yokohama.org/satoyama/006/9.html

※参考資料
青木優和著『われから絵本』2010