里山とは
里山。
なんとなく懐かしくて、風景や風の匂いまで感じられそうな言葉です。
しかし、実は近年になって広く使われるようになった言葉なのです。
里山は、伝統的な農村の暮らしを支えてきた自然です。
薪や炭の材料を採り、肥料にする落ち葉を集めた林のほか、
田畑、小川、草はら、ため池、屋敷などが調和して、
落ち着いた景観を作っていました。
適度に人の手が入り、さまざまな環境に恵まれた里山は、
植物や動物にとっても豊かな環境だったので、
生きものたちのにぎわいがありました。
半世紀前まで、このような身近な自然は、ありふれたものでした。
ところが、高度経済成長期を通して、化石燃料が生活に浸透するようになると、
私たちは身近な里山に価値を見いだせなくなり、
手を入れることをやめ、そして失っていきました。
里山とかかわる人びとの知恵や技、考え方も手放しました。
次第に、里山をすみかとする生きものたちも、姿を消していきました。
少し前まで、貴重な自然とは生活圏から遠いところにあるもので、
身近な里山には守るべき価値がないと思われていました。
けれども、無くなってから、はじめて私たちはその価値に気づいたのです。
長い時間をかけて受け継いできた里山の自然と文化という遺産を、
ほんの一瞬にして失いつつあることを。
里山は、人がかかわることによって作り上げられてきた自然であり、
人の手が入らないとその生態系は崩れてしまいます。
ここには、人と自然が共生するモデルがあります。
また、里山には、人が手を加え、恵みをいただきながらも、
資源を枯渇させることなく続けられてきたしくみがあります。
ここには、持続可能な社会のモデルもあります。
つまり、自然との共生や持続可能な社会を求める「環境の時代」によって、
「里山」という言葉は必要とされ、広く使われるようになったのでしょう。
よこはま里山研究所NORAは、
これからの社会を構想するときに重要なモデルを提供してくれる「里山」について、
あらためてこの価値をとらえ直し、
地域社会における環境、文化、コミュニティのあり方を見つめる場として注目しています。
リサイクルのしくみは、里山にあり
限られた資源を有効に使う。里山では資源が循環しています。
落ち葉はたい肥にして畑や田んぼへ。お米を収穫した後の稲わらは、草履や縄、畑のマルチングへ。これも古くなればたい肥になります。
使えなくなれば捨てるしかないプラスティック製の生活用品も、里山では竹やわらなど土に還る自然素材で作られていました。里山には完全リサイクルのしくみがあり、ゴミになるものは何もありません。
持続可能な暮らし そのモデルは里山にあり
後先考えずに使い尽くされている石油、伐り倒される熱帯雨林やタイガの森。このままではいずれ資源は底をついてしまうでしょう。
しかし、里山では自然の再生力を超えない範囲で伐採・再生を繰り返すしくみがあります。適度に人が手を加えることで、森には光が入り、生きものに様々なすみかを提供する。長年培われた「使いすぎない知恵」で、資源は次世代まで引き継がれます。それは極めて永続的なしくみです。
日本のスローライフは、里山にあり
大量生産、大量廃棄。世界中どこでも同じ形・同じ質のファストフードに象徴される20世紀のファストライフ。地球環境を荒廃へと追いやるそのスピードから自分を解放し、生活や衣食住を見直し、じっくりゆっくり生きることを楽しむ、そんなスローライフが求められる現代。
季節のリズムに沿った農作業。お盆、お月見、お正月などの年中行事。冬に仕込み、秋に出来上がるお味噌。里山では、その地域で採れた旬の食材を味わい、季節ごとのシゴトや行事がある。そこには自然にあわせた生き方があります。
人と森の関わり方の変化
森からの産物が使われなくなったから、荒れる森。 里山では、雑木林から薪や炭などの燃料やたい肥用の落ち葉を採り、竹林から生活用具の材料やタケノコを得ていました。生活様式の変化で、燃料はガスや灯油へ、たい肥は化学肥料へ、生活用具はプラスティック製品へ。里山林は必要とされなくなり、宅地開発によりそのほとんどが失われてしまいました。わずかに残った里山林も、荒れて暗い森になり、かつて見られた動植物が次々と姿を消し、人の手が加わってこそ維持された里山独自の生態系は失われつつあります。
里山再生に挑戦する
里山は人が”使い続けてきた”からこそ、維持された身近な自然。
いま、里山を再生しようと様々な取り組みが行われています。
「荒れて人が遠のいてしまった里山をなんとかしたい。」
「かつての豊かで美しい里山を。」
「里山に生きもののにぎわいを。」
「人と自然のつながりを取り戻したい。」
「人と人とのつながりを取り戻したい。」
里山との関わり方は、たくさんあります。
里山を知る。
里山に足を運ぶ。
活動に参加する。
里山の恵みを使う。
里山の知恵を学び活かす。
里山を味わい、楽しみ、考える暮らしを選ぶ。