第143回 田園ふれあいランド 活躍と交流

2020.7.31
いしだのおじさんの田園都市生活

彼、やってしまった。
粗暴行為。ソボーコーイ。
職員にパンチをくらわしてしまった。
それも、女性職員。2名。
そこそこいいガタイをした男。
ゆえに、女性職員は吹っ飛んだ。
別の日には、消火器を噴射してしまう。
目が離せず、男性職員によるマンツーマンの密着マーク体制となる。

新卒で、4月から、私たちの事業所に通っている。
卒業間近に実習をして、契約となった。
それまでに、いくつか他の事業所でも実習をしたようだ。
しかし、
「作業能力や、生活のスキルには大きな問題ないが、、、」
「予測不能の問題行動があるので」
と、受け入れてもらえなかったようだ。

障害者支援の事業所にもそれぞれキャパとか事情がある。
いわゆる困難ケースは引き受けられないところも多い。
すでに何人か対応していて精一杯というところもあれば、
最初から無難に事業に適応する人しか受け付けないところもある。
私の勤務する法人は、困難ケースこそ受けとめるという方針のようだ。

また、受けとめたが良い対応ができていない事業所もある。

やまゆり園で「一日中、車椅子に縛りつけられて」いた女性が、
別の施設に移り、そこで拘束を解かれ、、、
という事例を「マガジン9」で雨宮処凛が紹介している。
「別の施設」とは我が法人の事業所。

ttps://maga9.jp/200714-1/

 

さて、その彼が田んぼで田車を押して歩いている。
田車の扱いは、職員がやって見せたらすんなりと呑み込めたようだ。
足元の悪さもものともせず、グイグイと力強い。
泥はねも、暑さも、なんのその。

別の日には、玉ネギの収穫で大活躍。
しっかり根を張った玉ネギを引っこ抜くのはけっこう力が要る。
しかし、このときも、抜いて抜いて抜きまくった。
「きっと、つくるより壊す方が得意なんでしょ」
と、口の悪い誰かに言われながら、、、

自閉症スペクトラム障害という診断をもらっているという。
「コミュニケーションが苦手」、と、よく言われる。
「こだわりが強い」とも、、、
それは、裏返すと、
「目で見て情報を得て模倣することは得意」
「一度フィットすると、どんどん作業する」
とも、言い換えられる。

なぜ、女性職員にパンチを?
気になって、コミュニケーションしたかったことの表現?
甲高い声が苦手?
どこかで身についてしまった行動パターン?
独特の認知特性?
衝動性?
理由を考えることも必要だが、
まずは、女性職員とは接触の機会を制限して、
キチンと作業をして評価されることを繰り返し、
距離を置いて同じ空間にいるなど少しずつ接触の機会も作っていこうという方針。

先日は、くだんの女性職員が数メートル先に見えたら、
自分からかぶっていた麦わら帽子で顔を覆い視線を遮っていた。
失敗したくないという意思?と、受けとめたい。
女性職員はもちろんだが、彼を守ってやらねばならない。

「やられちゃったら、ごめんなさい」という標語がある。
ソボーコーイ、や、破壊行為、などが起きてしまったとき。
そんなことするヤツはトンデモナイ、ユルセネェ、とも思うのだが、
それを的確に予想して未然に防げなかった職員がプロとして未熟、と、考える。
ヤツも、失敗したくてしているわけではない。
自分で自分をコントロールできていない。
いや、そのコントロールの力を身に着けていく過程にあるのだ。
困った人は、実は、困っている人、なのだ。
プロならば、そこを、いい方向に切り替えていく手助けをすべき。
と、考える。

今、こだわっているのは2人の女性職員だが、
他の女性職員や、いや男性職員だって要注意だ。
畑に遊びに来てくれる親子も心配だ。
今のところ、目立った反応もなく、受け流しながら作業に集中できている。
農作業の中に彼のいい力を発揮する場があることで、ちょっと安心。
だが、安心したころにハプニングが無いという保証はない。
彼には悪いが、簡単には信用できない。
リスクを想定し、それを回避した対応をしている。

実は、子どもが苦手な利用者さんはけっこういる。
鳴き声や、歓声に耳を覆うという姿を見ることもある。
不安定だった自分の子ども時代がフラッシュバックするのかもしれない。
来客自体が苦手というか理解できない利用者さんもいる。
イレギュラーな刺激ととらえてしまうのだろう。
虐待などで人に対して必要以上と思われる防衛をしてしまう利用者さんもいる。

一方に、子どもが大好き、という利用者さんもたくさんいる。
子どもたちが来てくれると、仕事そっちのけでいっしょに遊ぶT。
子どもに帰るというか、そもそも子どもから成長していない?
子どもたちにも人気なので、盛り上がる。
先月紹介した糠団子のときは、仕事が遊びになって?大いに盛り上がっていた。
ので、それはそれで良かった。
畑では、いつも、「子どもたち来ないかなぁ」とブツブツ言いながら作業している。

田園ふれあいランドでは、いろんな個性のある利用者さんとお客さんを歓迎する。
ビミョウにディスタンスをとる必要のある利用者さんもいるが、、、
みんな、地域の仲間だ。
田んぼや畑は、生産だけの場ではない。
交流の場、仲間づくりの場だ。
そして、利用者さんの活躍の場なのだ。
来年は彼の活躍で草の無い田んぼを実現させたい。

石田周一