第119回 「農福連携」「他産業並み」

2018.7.31
いしだのおじさんの田園都市生活

酷暑、ですね。
・んだ。
なになに?
・日中、だらだら汗かきながらアウトドアでワークしている。
で、おかしくなった?
・もともと、オカシイ。
知っているけど、、、
・かいている汗の量は、ハンパナイって。
きも。
・俺だって、キモイよ。
ははは。
・それでも早朝5時には起きて、少しは勉強するようにしている。
本当?
・ウソ!
、、、ねえねえ、、、
・最近、頼まれて(頼んでいただいて)少し長い原稿を書いた。
ちゃんと書けた?
・うーん。とにかく大量の汗をかく肉体関係の日常だから、頭は働いていない。
肉体労働でしょ。
・そうとも言う。外にいるから、ほとんど冷房のお世話にはなっていない。
ふうん。
・エコだろ。
そうかもね。
・エコよりエロが好きだけど、、、
いいかげんにして。
・バテないようには頭脳も使っている。
はい。
・そして、夜は回復のための時間。栄養補給と水分摂取。
ですね。
・我が社の野菜!オクラ、モロヘイヤ、ゴーヤは毎日食べている。
それは、いいですね。
・そしてビール、水分摂取。
えーっ、それってどうなの?
・人生はビールだ、というのが、俺の信条。
ダメでしょ。
・ますます、頭が働かない。
困りましたね。
・いや、とにかくこの夏を乗り切るよ。
それは、頑張ってください。

と、いうことで、書いた原稿の一部を少し焼き直して掲載します。

宮沢賢治に、「虔十公園林」という短編がある。
虔十は今で言う知的障害者。ある日、杉の木を植えたいと言う。家族は「あの土地に植えても育たない」と言いながらも、望みをかなえてやる。
稼ぎが目的なのではない。虔十は、「雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をぱちぱちさせ、青空をどこまでも翔けてゆく鷹を見ては、はねあがって手をたたいてみんなに知らせました。」という自然と交歓する人だ。
大きくはならないが、きれいに育った杉の林は、小学生たちが楽しく集う場になる。その様子を見ながら笑っている虔十を子どもたちは「少し足りない」と見て、ばかにした。
虔十が亡くなったあと10年20年、周囲は開発されて街になるが、小学校の隣にある虔十の林には元のままに子どもたちの元気な声が響いている。そして、ある卒業生の提案でそこは「虔十公園林」となる。
その卒業生は言った。
「虔十といふ人は少し足りないと私らは思ってゐたのです。いつでもはあはあ笑ってゐる人でした。この杉もみんなその人が植ゑたのださうです。あゝ全くたれがかしこくたれが賢くないかはわかりません。たゞどこまでも十力の作用は不思議です。」
賢治はこう書いて、結んでいる。
「全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、さはやかな匂、夏のすゞしい陰、月光色の芝生がこれから何千人の人たちに本当のさいはひが何だかを教へるか数へられませんでした。」

初めてこの物語を読んだのはいつのことだっただろうか。
父が宮沢賢治を愛読していた影響からだろうから、たぶん子どものころだ。そのころの私は知的障害ということを知らなかっただろう。
20代の半ばごろ、こころみ学園を知り、園生のみなさんが地域の林業に貢献している姿を見て、あらためて思い出した記憶がある。
グリーンで雑木林を活動の場としたこともあり、私は、この物語を知的障害の人たちとの活動のテーマとしてきた。

かれこれがいつのまにか30年。農と福祉の情勢も変わってきている。
「農福連携」が盛んに言われる時代が来るとは思っていなかった。まぶしく見える実践も多い。
ただ、私にとっては結果として農福連携だったが、これを目的化することはどうなのかと思うこともある。
1996年、明峯哲夫さんとの共編著『街人たちの楽農宣言』(コモンズ)のなかで私は、農と福祉は「ダブルマイナー」だと言っている。20年たって「農福連携」に勢いが出てきたが、ダブルマイナーは変わっていないと思う。ただ、マイナーなものを見つめる眼差しは変わったかもしれない。
原稿の最後、次のように記した。
「農福連携」が盛んに言われ、農水省と厚労省が協働して推進するまでになっているのは周知のとおりだ。担い手不足と言われる農と働く機会が不足しがちな障害者のマッチングは基本的に良いことだと思う。
一方で、障害者福祉の先達である糸賀一雄が「この子らを世の光に」というスピリットはどうであろう。福祉が不足するサービスの供給が主たる目的となり、「この子らに世の光を」になってはいないか?
また、農業経営における他産業並みの所得確保が長く課題になりながらなかなか難しい状況は変わらない。福祉業界においても、職員の離職率の高さや所得の低さは課題であり、「働き方改革」も必要だ。そこには、単に経済的に「他産業並み」を求めるのでない何かが必要と思う。

なんか、最後は評論家みたいな口調ですね。
・うん、評論家にはなりたくないのにね。
うまく、まとめられなかった?
・そうだね。まぁ、まとめる必要もないんだけど。
そうなの?
・いや、原稿としては区切りは必要だけど。俺のなかでは「つづく」だから、、、